前立腺専門外来について
前立腺は前立腺液を分泌する器官です。膀胱の下にあって、大きさはくるみ程度です。尿道とこれに合流する精管を取り巻いています。分泌される前立腺液は精液の一部となって精子を保護したり、精子に栄養を与えたり、精子の運動機能をサポートしたりします。
前立腺は加齢とともに肥大する傾向があります。前立腺が肥大すると尿道が圧迫されて排尿障害などを引き起こします。
前立腺肥大症
前立腺肥大症は60歳以上の男性の3人に1人が罹患していると言われています。「尿の出が悪い」「トイレが近い」「夜、何度もトイレに起きる」のは、「歳のせい」ではなく、前立腺(または膀胱)の病気である、という認識が必要です。主な治療法は薬物療法(飲み薬)、または手術ですが、ほとんどの方は薬だけで対応可能です。
前立腺肥大症の症状
排尿に関する症状としては、尿の勢いがなくなる、出したいのに尿が出てこない、排尿中に尿が途切れる、力まないと尿が出にくいなどの症状があるほか、排尿後に残尿感や切れの悪さを感じます。蓄尿に関する症状では、何度もトイレに行く(頻尿)、急に強い尿意が起こる(尿意切迫感)、尿漏れする(尿失禁)などがあります。
前立腺肥大症の検査
症状を詳しくお伺いし、あわせて超音波検査、尿流量検査、尿検査、血液検査を行います。
超音波では前立腺の大きさを計測します。尿流量検査はトイレのような検査機に排尿すると、尿の勢い、量、時間などを自動的に測定してくれます。血液検査では血清PSAという前立腺特異抗原を測定し、前立腺がんのスクリーニングとして有効です。
前立腺肥大症の治療
前立腺肥大症の基本治療は薬物療法です。前立腺肥大症が排尿等に障害を引き起こすのは前立腺の平滑筋が収縮して尿道を圧迫するケースと、肥大した前立腺が物理的に尿道を圧迫するケースがあります。ケースによって、前立腺の平滑筋を緩める薬を用いたり、男性ホルモンの作用を抑えて前立腺を小さくする薬を用いたりします。
薬物治療の効果が得られず改善しない場合には手術を行って前立腺を切除します。尿道から内視鏡を入れて電気メスで前立腺を切除する手術(TURP)が一般的ですが、レーザーを用いた新しい手術も登場しています。
前立腺癌
前立腺癌は、アメリカでは男性の癌発生の第1位と多く、日本でも大変増加しています。
しかし、前立腺癌はみつけやすい癌で、採血だけでほとんど発見することができます。50歳を過ぎたら、年1回程度は腫瘍マーカー検査を受けましょう。
前立腺癌の症状
早期にはほとんど自覚症状がありません。尿が出にくい、排尿回数が増えるといった症状が出ることがあります。進行すると血尿が見られることもあり、近くの骨やリンパ節に転移すると痛みを感じます。
60歳以降に罹患率が高くなりますが、進行が比較的ゆっくりで早期発見・早期治療ができます。寿命に影響を与えないこともあります。
前立腺癌の検査
血液検査でPSA(前立腺特異抗原)を検査することで比較的容易に早期発見ができます。健診や人間ドックで異常数値が指摘され、泌尿器科を受診して発見されることも増えてきています。
泌尿器科では直腸指診、腹部超音波検査、必要があればMRI検査、CT検査などを行います。腫瘍マーカーのPSAが高値の時には、組織を採取してがん細胞の有無を調べる前立腺生検が必要になる方がおられます。
前立腺癌の治療
がんの病期(ステージ)などによって適切な治療法を選択します。前立腺がんのおもな治療法は、監視療法、手術(外科治療)、放射線治療、内分泌療法(ホルモン療法)、化学療法です。
手術は基本的に前立腺全摘除術となります。開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット手術などの術式があります。手術後に尿失禁や性機能障害(勃起障害)の合併症が予想されます。
放射線治療でも化学療法でも合併症や副作用がありますので、治療担当医と十分相談の上、適切な治療法を選択する事が必要です。
当院では、監視療法、内分泌療法(ホルモン療法)を行っております。手術療法をはじめ、他の治療法を選択される方には、親しくさせていただいている連絡が密な連携病院(国立がんセンター東病院や慈恵医大柏病院など)へ紹介いたします。
急性前立腺炎
尿に含まれる細菌に感染し、前立腺が炎症を起こす急性の病気です。
急性前立腺炎の症状
38℃を超える発熱、排尿時の痛み、排尿困難、トイレに回数が増える頻尿などがおもな症状で、これらが強く出ることが多いのが特徴です。進行すると、体の震えと寒気、筋肉痛や関節痛、尿閉(前立腺が腫れて尿道が塞がれ排尿ができない)などの症状も出てきます。
急性前立腺炎の検査・治療
尿検査で細菌感染の有無を調べます。感染があった場合、菌を抑制する抗生物質を点滴ないし内服します。排尿ができない、高熱が続くなどの場合、全身症状が強く出るような場合には入院が必要になることがあります。前立腺の中に膿瘍(膿の袋)ができた場合には、手術でこれを取り除くことがあります。前立腺肥大症を併発していることも多く、同時に前立腺肥大症の治療も必要となることがあります。
慢性前立腺炎
前立腺炎とは前立腺の中で炎症が生じた状態で、細菌が前立腺について起きる「細菌性前立腺炎」と細菌がない「非細菌性慢性前立腺炎」がありますが、非細菌性の方が多く見られます。 慢性的に炎症が起こるので発熱はなく、会陰部・陰のう部・鼡径部・下腹部など前立腺の周りの放散痛として痛みや、不快感を感じるのが特徴です。非細菌性慢性前立腺炎の中には、前立腺周囲の静脈のうっ血や骨盤底筋の緊張が主因である「骨盤内うっ血症候群」や「慢性骨盤疼痛症候群」の方が多く見受けられ、以下この病態に関してご説明いたします。
慢性前立腺炎の症状
下半身に多岐にわたり色々な症状が現れます。
- 排尿症状:血尿・頻尿・残尿感・尿道違和感・尿の勢いやキレが悪い・尿漏れ
- 腹部症状:下腹部痛・足の付け根や会陰部(肛門周り)の鈍痛・違和感・不快感
- 射精症状:射精時の疼痛・血精液
- その他 :睾丸の鈍痛や不快感・陰嚢の痒み・下肢(太ももなど)の違和感やしびれ
慢性前立腺炎の原因
血流障害(静脈血のうっ血)が原因と言われています。前立腺は胴体の一番下に位置し、元々、静脈血の心臓への戻りが悪い所です。さらに、上からは胃や腸の重みがかかっています。これに、長時間の座位(デスクワーク・ドライブ・自転車)が加わると下からも圧迫され、血流が遮断されうっ血が生じ、前立腺周囲に古い血液が溜まる事により炎症が起こります。 その他、湯舟に浸からない・運動不足・飲酒(前立腺が浮腫む)・ストレスなども症状の悪化をきたす要因です。
慢性前立腺炎の検査
超音波検査と尿流量(ウロフロメトリー)検査を行います。
超音波検査
前立腺のむくみ、前立腺内部の石灰化、前立腺周囲の静脈の拡張を調べます。
尿流量(ウロフロメトリー)検査
尿流量(尿の勢い)と残尿量を調べます。尿流量の低下や残尿の増加は前立腺炎が疑われます。
慢性前立腺炎の予防について
日常生活・生活習慣の見直しと工夫が重要です。
長時間の座位
長時間のデスクワークや車の運転の際は、1~2時間毎になるべく席を立ち、トイレにいくフリをして周囲を歩いたり、それが出来ない場合はドーナツクッションなどを利用し、圧迫を緩和出来る方法を工夫しましょう。
お風呂
シャワー浴中心の人は、毎日湯船に浸かり、1日1回は血流が改善するチャンスを作る。よく下半身を温める事で血流が改善し、症状が改善します。
運動
血流障害改善の為、適度な運動を心がけましょう。
飲酒
深酒は前立腺が浮腫む原因となるのでなるべく避けましょう。
慢性前立腺炎の治療
当院では投薬による治療を行っております。通常は2~4週間で症状は軽快していきますが、すぐやめると再発 します。多岐にわたる症状は改善と再燃を繰り返す事も多くあるので、 日頃から日常生活に注意し、最低6ヶ月は服薬をしっかり続けることが望ましいとされています。
血中PSA測定
前立腺特異抗原PSAは前立腺の上皮細胞から分泌されるタンパク質です。がんや炎症により前立腺組織が壊れると、PSAが血液中に漏れ出して血中濃度が上がります。血液検査でPSAの血中濃度を測定することで、効率的に前立腺がんを見つけることができます。血中濃度が高いほど前立腺がんの確率も高くなります。
一般的にPSAが4ng/mlを超えると異常値とされ、4〜10ng/mlはグレイゾーンと呼ばれ、20〜50%の割合で前立腺がんが見つかっています。100ng/ml以上だと強く前立腺がんが疑われます。
ただ、「PSA値が高い=前立腺がん」とはいえません。前立腺肥大症や前立腺炎でも高い数値が出ることがあるためで、基準値以上の値が出た場合には専門医を受診してより詳しい検査が必要です。
PSAは前立腺がんのスクリーニング、診断のほか、がんの進行程度の推定、治療効果の判定、再発の診断、予後の予測などにも利用されています。
前立腺生検
PSA測定や超音波検査などの検査では前立腺がんの確定診断をすることはできません。がんの診断を確定するためには前立腺の組織の一部を採取して顕微鏡などで調べ、がん細胞の存在を証明する生検を行います。
肛門から棒状の超音波端子を入れてエコー画像で前立腺を観察しながら、バイオプティガンという自動生検器具でがんが疑われる部位などをねらって組織を採取します。多部位生検といって6ヶ所以上の組織を採取します。(施設によっては12ヶ所、さらには18ヶ所以上から採取する事もあります。) 生検では前立腺がんの有無だけでなく、悪性度、病期(がんの広がり)を知ることができます。
前立腺生検は、通常麻酔下で行なうため2、3日の入院が必要です。当院では、提携先病院へ速やかにご紹介が可能です。生検後は、軽度の直腸出血、血尿、肛門出血、精液に血が混じるなどの合併症、急性前立腺炎を併発することがあります。
前立腺生検の適応
前立腺の生検は血液検査による前立腺特異抗原PSAの値を参考に適否が決められます。PSAは4ng/mlを超えると異常値とされ、数値が上がるほど前立腺がんが存在するリスクが高いとされています。がんの検出率は、PSAが2〜3.9ng/mlでは10〜20%、4〜10ng/mlでは20〜50%、10ng/ml以上では50%以上となっています。
ただ、PSA値だけで前立腺生検を行うと、がんのない多くの方に生検の負荷をかけることにもなりかねません。そこで、まずは前立肥大症や前立腺炎の合併の有無を検査します。また、PSAが4~10mg/mlのグレーゾーンの方は、PSA値の変化を3~6ヶ月経過を見ることもあります。PSAの異常値、さらに前立腺の体積、排尿状態、尿の所見、家族の前立腺がん歴など、あらゆる方向から前立腺生検の適否を考慮します。
わずかなリスクも見逃さないことも大事です。そこでPSA値が10ng/ml以上だった場合には進行度の高いがんのリスクが高いため、早期に前立腺生検をおすすめします。